料理や暮らしについて、文字で読むのがとても好きです。
ひとの暮らしの雰囲気を、お裾分けしてもらっているような気持ちになります。
今回読んだのは、こちら。
料理について書いてある本なのに、前半は特に文字ばかり。
なのですが、「シンプルで、簡単で、美味しい」をどのように実現し、その背景にある考え方として「料理を日常の中でどのような位置付けで捉えていくか」が興味深いです。
私にとっての理想のキッチンと、料理
私が素敵だなと思う方たちは大抵とっても料理上手です。
料理そのものもだし、テーブルコーディネートも素敵。
たくさんのお洒落な調理器具・調理家電に囲まれたキッチンで、それをフル活用して作られる食事を見ていると、こんなことができるようになりたいなと思います。
もっと具体的に【理想】を考えるなら
「毎日の料理は旬のものをシンプルに調理した、野菜がたくさん並んでいる。
特別な日、たとえば子どもの誕生日にはケーキをスポンジから焼いてデコレーションも上手。イベントのご飯もおもてなし料理もばっちりで、手土産も自家製のものを可愛くパパッとラッピングして持っていく。
テーブルコーディネートはシーンに応じてスタイリングされ、食器類はバリエーションはあるけれど決して多すぎず、手入れが行き届いて管理されている。」
という、“THE・料理得意”というのが、理想でした。
ただ実際の私は、できないのです。
昔よりはマシになったけれど、料理に対してはまだ苦手意識が強いし、センスもない。
特別な日のごはんとしては、お皿も家にあるの全部で15枚ぐらいしかないし、おもてなし料理どころか家族以外に料理を作ったことがないのでテーブルコーディネートなんてやったことがない。
毎日のごはんでは、メニュー自体は理想に近く粗食であることには満足しているのだけれど、バリエーションはもうちょっと増やしたい。そして盛り付けも上手にできるようになりたい。
つまり現状に大きく不満があるわけではないけれど、
「人をもてなす料理を作れるようになる」や「普段と違った調理で料理そのものを楽しむ」などの部分については変わらず大きな苦手意識があるままです。
「食べることに対してもう少しクリエイティブな気持ちを持てたらいいのになあ。でもそのためにはもう少し変わった食材とか、無水調理鍋やヘルシオみたいな高性能オーブンとかのちがった調理法ができるものが必要になってくるんだよなあ。」と、長らく思っていました。
ミニマリストは、食生活も断捨離すべき?!
そして、この本。
まずは、いきなりあとがきから。
住まいや持ち物、衣類などを「断捨離」するのが流行っているけれども、「衣食住」のうちの「食」についてはなぜか置き去りになったままなんじゃないだろうかということ。
あとがき
持ち物は減らしてシンプルな生活を志向しているのに、食だけは相変わらずゴテゴテとした豪華な料理や、コンビニなどのファスト食で誤魔化している人が多いんじゃないだろうかということ。
(略)「食」についても「断捨離」して、全てにおいてシンプルな生活を目指そうじゃないかー
断捨離が流行っているけれど、衣食住のうち食の位置付けだけが定まっていないのではないだろうかという提案。
たしかに暮らしのブログを読んでいても
「年間服12着!」「購入品と断捨離したもの」
みたいなのはわりと見るけれど、それらに比べて「今週の食事」や「調味料これだけ」みたいなのはぐっと少ないように感じます。
そもそもミニマリストとは「不要なものを捨て、自分にとって本当に必要なものだけを持つことでかえって豊かに生きられる」(参考:ミニマリストとは?コトバンク)状態を指しているはず。
その観点で捉えれば、衣食住の中で食にだけ手をかけすぎていてミニマルでなかったり(美食)、コンビニや惣菜などがメインの食生活で豊かさからずれてしまったり(ファスト食)ということがあるのかもしれません。(ファスト食が豊かでないかは価値観によりますね)
派手で高級な「美食」でなく、かといって半調理品や冷凍食品を使う「ファスト食」でもない。さらに言えば、無添加やオーガニックにこだわるような「自然派」でもない、基礎調味料を使ったシンプルな料理ばかりです。
というのは、食におけるミニマルの実践だと感じました。
本の中では調理器具についての話も出てきますが、こちらもいたってシンプル。
食材も、調理法もシンプルで、ただそれで十分なのだと書かれています。
味付けの組み立て方や、調理の入り口をメニューではなく食材にすることなど、具体的で参考になる箇所も多くありますが、私には「シンプル・安い・早い」自宅の料理が、人におすすめできるほど胸を張れるものになりえるということに非常に希望を見出せた感じがしました。
シンプルでいることは、不確実な時代において有利になる
著者の佐々木さん自身は、幼少期は缶詰や冷凍食品を使った家庭料理を食べて育ち、社会人となり激務で新聞記者時代をされていた頃は外食がメインだったそうです。
自炊とは無縁なそれらの時代を経て、今はシンプルな料理を毎日自炊をされているとのことですが、そのような生活へシフトするきっかけとなったのは、妻に誘われて参加した断食道場での体験があるとのこと。
断食は、味覚を極め付けぐらいに鋭敏にしてくれる貴重な体験なのです。
p 56
素材の味に対する感覚が、きわめてクリアになっていくのです。これは日常生活では決して得られない不思議な感覚で、私にとっては驚天動地の新体験でした。
断食での体験を通じて、シンプルであることに価値を見出し
食のみならず「いかにして生活をシンプルに、原点に立ち戻らせるか」
というようなライフスタイルを確立しようと考えるようになったとのこと。
今の時代は、とても不確実で、流動的です。先のことは誰にもわからないし、予測できません。
不確実であることに対処するためには、人生の機動力を高め、勤め先の会社に頼り切ることなく、身軽にすいすいと渡っていけるようにすること。
身の回りのものを減らして、急に家賃が払えなくなったりしても、いつでもどこにでも引っ越して、生活を続けられるようにすること。生活をシンプルにして、余計なものをたくさん背負わないこと。でもそれは、生活を投げ出してしまうということではありません。
モノは極限にまで減らし、生活をシンプルにしていく中で、でも「私たちはどうやって生活を楽しんでいくのか」というライフスタイルについてだけは、ちゃんと構築していくべき。不確実な時代だからこそ、生活だけでも構築的に依拠できるものにしていく。
不確実な時代に自分を確認するベースとして、ライフスタイルを構築していく。
その「構築的なライフスタイル」とは、自分で納得できるおいしいご飯をちゃんと作って、健康的な食生活を送っていくことだ、とこの後につづけられています。
そしてその食事は、「美食」でも「ファスト食」でも「自然食」でもなく、「健康的で値段が安く、簡単で食べやすい」ものであるということ。
家庭料理を、肩の力を抜きつつもクリエイティブに楽しめるヒントがありました。
料理の描写もテンポ良く、読み物としてもとても面白いです。